私がその蝶に初めて出会ったのは50年くらい昔、小学生の時であった。
ある日蝶マニアの友達が自慢の標本を見せてくれるという。友達の家に行くときっと高い山に登って採ってきたに違いないきれいなチョウが並んでいた。クモマツマキチョウ、ギフチョウ、オオムラサキなどの珍しいチョウとともにウスバシロチョウがいて名前を覚えていた。
私はその時一生それらのチョウを実際に見ることはないだろうと思った。将来蝶を求めて採集するような趣味を持つことも決してないだろうと思ったし、実際にそうはならなかった。それ以来それらの蝶のことはすっかり忘れていた。
それから40年が経ち山梨県北杜市長坂町に小さな家と畑を見つけて川崎の家と行き来する生活が始まった。その記憶はあるとき突然蘇ることになった。5月の連休が終わったころだったろうか、家の周りを白い蝶がふわりふわりと飛んでいた。初めはモンシロチョウであと思った。しかし向こうが透けて見えるような羽、くっきりとした黒い筋。ウスバシロチョウだった。小学生の時にみた標本にあった蝶、二度と見ることがないと思っていた蝶を見られた感激と興奮は忘れることができない。
調べるとこのウスバシロチョウはそう珍しくはないらしい。東京でも八王子や高尾の方に生息している。しかし小学生の時の記憶のおかげで私にとっては特別な蝶であり見飽きることはない。この辺りでは5月の連休の頃から現れて6月になるといつの間にかいなくなる。草花の上をなめるように優雅に飛び回り時折日光浴のため羽を休める。小さいがアゲハチョウの仲間で、幼虫はムラサキケマンという雑草を食べているらしい。
幻のオオムラサキを一度は見てみたいが私はウスバシロチョウで大満足である。この原稿を書いている今も窓の外にウスバシロチョウがひらひらと舞い飛んでいる。
八ケ岳ふるさと倶楽部交換日記
舘野 進
1958年東京都生まれ
昨年3月で37年勤めためた東京都を退職。
長坂町で過ごす時間も増え丁寧な畑仕事と田舎暮らしの人の輪を広げようと模索中。