農林業へのリスペクト根底に ボランティアもアウトドアも
東京都・太田区 ⇔ 山梨県・北杜市
田舎暮らしを希望する都会人や新規就農や定年帰農の世代に、そして山好きの人たちにも常に人気が高い山梨県北杜市。奥村具子さんの白州町の家は1時間もあれば南アルプス、北アルプスの登山口に行けるという好立地だ。登山だけでなく林業や山の動植物、山村の文化、歴史と広く関心を持つ奥村さんは森林&林業ボランティアの経験も積んでいる。細身なのにワイルドで力持ち。その個性あふれる話の一端をお伝えする。
窓から南アルプスの山々が見える築浅の美邸。奥村具子さんは月に10日ほど滞在する。登山、ハイキング、長距離散歩、草木染めの染料になる植物探し&採集、風景画を描き、屋内外のメンテナンスもと大忙しだ。
2年の冬、本誌でこの物件を見かけたとき「以前から野辺山や小淵沢によく来ていて、この辺も歩いたことがあるんです。実際に見に来たら、窓から鳳凰三山が見える!で、即決」。娘さんやその友人もこの家を山登りの基地として利用し、今も現役のご主人は夏休みなどに短期に滞在する。
山登りはしていても、寒冷地の生活にはなじみがなかった奥村さん。薪ストーブの使い方すら知らなかったが、今や薪ストーブの煙突掃除や薪材の調達に薪割り、薪置き場や薪箱作り、車のタイヤ交換、笹藪開墾、なんでもござれ。「もともと手や体を動かすことが好き。中学校の理科の教員時代は、予算がなくて実験道具をよく手作りしていたんですよ」。
山登り・山・山村との関わりは長い。生まれも育ちも神戸で、常に山が見えている暮らしだった。教職に就いた東京で「窓を開けたらマンション。山が見えない東京は人間の住むところではないといきなり登山に目覚めてしまいました」。
並行して都市の自然保護にも関わりたいと自然観察会のボランティアを続け、東京都・奥多摩で林業ボランティアにも通う。「間伐体験で4㍍の丸太の両端にロープを掛けて道のない斜面を駆け下るなんてこともやりました」。
別途あちこちに教えを請いに行く。さる有名な林業家は「女に教えることなどない」とけんもほろろだったとか。島崎洋路氏(元信州大学演習林教授。独自の間伐方法で山の赤ひげ先生の異名を持つ)が講師を務める「KOA森林塾」に参加した際は「女性には一番大きな木を伐ってもらいます」とご指名が。初めてチェーンソーを持ち、樹齢60年のアカマツと向き合って格闘したという。
今、奥村さんが「八ヶ岳ふるさと倶楽部」(※)内の「薪ストーブ愛好会」の薪材調達作業で男性に伍してチェーンソーを駆使し、極太の薪材も難なく運ぶのも納得だ。「皆さんに怪力と誤解されているようですが(笑)」否、まさに怪力。
同倶楽部内でもう一つ入会している「山の会」ではこれまで霧訪山(塩尻市)と毛無山(山梨・静岡の県境)に登った。「自分のレベルに応じて日程が合う範囲内で参加して楽しんでいます」。
4年前、定年まで4年を残して退職したが、今も奥多摩に通い、町おこしボランティアとして「奥多摩森林セラピー」のガイドを務めるなど、都会人が山村に関われる場を探し、活動し続ける奥村さん。「根底には農林業へのリスペクトがあります。人間は水も空気も食べ物もすべて森に養ってもらっている。経済と工業に頼りすぎた価値観は山と共存していたときのものにもう一度近づけないものか」、その願いがパワーの源泉だ。
(※)「ふるさと情報館」の物件を購入して八ヶ岳エリアに住む(滞在する)有志の組織。同好会、趣味・ボランティアの集まりが多くある。
ラーバニスト訪問
・現住所:山梨県北杜市白州町花水
・氏 名:奥村 具子(62・兵庫県出身)
・敷 地:約243坪 ・延床面積:約30坪
・資金調達:自己資金
・メッセージ:
田舎の家のメンテナンスは4シーズンけっこう大変です。が、それを楽しいと思うか大変と思うかで暮らしやすさが違います。
私自身の3年間を振り返ってまとめてみた田舎暮らしのコツは、
①やれることは自分でやる(煙突度掃除・冬タイヤ交換・薪割りもできた)、
②必要な物はなければ作る(作業台・収納箱ほか)、
③地域の方には必ず挨拶する(仲良くなって野菜をいただいた)、
④年間のメンテナンス表を作る、です。