四月を過ぎる頃ともなれば、北杜は桜一色となります。そして花々が先を競うように一斉に咲きだし、春の訪れが実感できる、心浮き立つ季節となります。しかし、私にはこの頃から少しずつ心配な事が頭をもたげ出します。
あの彼らが目を覚ましだすのではないのか、背中の辺りがゾクゾクして来るのです。私達がこの地に移り住んで二年半となります。人良し、味良し、景色良しと、大満足のこの地で、たった一つの不安の種がもうすぐ目を覚ますのです。
山里のこの地を選んだ時、ヘビくらいは、いるだろう事は覚悟していました。その内に慣れるだろうと、高を括っていました。しかし理屈ではなかったのです。やっぱりダメな物はダメでした。それなのに何故か私だけがヘビとの遭遇が多発するのです。
▲我が家からの桜越し、八ケ岳。
夫は私の三分の一以下しかヘビと出会っていません。ヘビを見ていない夫は言います。「どんなヘビを見たんだ?長さは?色は?顔の横に赤い線はあったか?体に丸い紋様はなかったか?太っていたか?」矢継ぎ早に聞かれても、返答不能です。そんなに細かく観察出来るくらいなら、こうして逃げて来たりしません。
色々な人にヘビの対処法を聞いて回りました。
「ヘビねぇ~!いるよねぇ~!」
「ヘビのほうが逃げるでしょう~」
「ヘビ?うちはサンクチュアリと言う事でねぇ~」
「ヘビかぁ?何やっても効かないねぇ~」
どうも決定打は無いようです。そこで考えました。まず家の周りをヘビの入り込む場所がないように片付けます。その周囲の草は隠れる事ができないように常に刈り込んでおきます。
これは勿論、夫のしごとです。私がこんな事をしてヘビと出くわしたら一大事ですから。そして畑に出る時は夫を斥候に放ちます。山道を歩くときは、しおらしく夫の影を踏まず三歩下がって歩く事にしています。これで多分ヘビとの遭遇は格段に減るはずです。
少し以前の事ですがお向かいの奥さんがチラッとこう言っていました。「あんまり怖がらせてもいけないと思っていたけど、引っ越してきて大分たつから、もういいよねぇ。この辺は結構ヘビいるわよ!」(えぇっうすうすはそんな気もしてましたが…)
八ヶ岳ふるさと倶楽部交換日記
秋澤 礼子(あきざわ れいこ)
東京・世田谷区→山梨・北杜市
1955年茨城県生まれ、結婚を機に世田谷区住まい。60年余りを全くの平地暮らし。40年弱、殆ど主婦として生活。2年程前に北杜市に移住。山に囲まれ、未だ発見だらけの日々を送る。