視線は自然と足元へ(6月の八ヶ岳だより)

田植えが終わりまだ小さな稲が風に揺れる。その先には南アルプスの眺め。(山梨県北杜市)
振り返ると4月の北杜市は、まだ冬の余韻を残していました。平均気温はおよそ8〜10℃前後で、日中は陽射しの暖かさを感じるものの、朝晩は冷え込み、霜が降りることもあります。木々は芽吹きの準備を進めていますが、景色全体としてはどこか控えめで、静かな春の入口といった趣です。
5月に入ると、気候は一段やわらぎます。平均気温は13〜15℃ほどまで上がり、日中は20℃近くになる日も増えてきます。空気は乾いており、風は軽く、遠くの山並みがくっきりと見渡せる時期です。田に水が入り、周囲の緑も一気に色を増し、春がようやく「広がる」感覚があります。年間を通しても、最も過ごしやすい季節のひとつと言えるでしょう。

6月の初旬。清泉寮では「幻の花」メコノプシスが見られます。(山梨県北杜市)
そして6月。数字の上では平均気温は17〜18℃と穏やかな上昇にとどまりますが、体感は大きく変わります。降水量が増え、湿度が高まることで、空気は明らかに重さを帯びてきます。梅雨の影響により、雨の日が続くようになり、空は低く、風景はやや霞みがちになります。
4月から5月にかけては、遠くまで見通せた南アルプスや富士山の稜線の風景が印象的でしたが、6月になると雲の向こうに隠れがちになります。その代わり、視線は自然と足元へと移ります。濡れた土の匂い、濃くなった草木の緑、水を張った田の反射など、身近な風景が存在感を増していきます。季節の主役が「遠景」から「近景」へと移り変わったようです。

季節の主役は「遠景」から「近影」の足元に。(山梨県北杜市)
北杜市の4月から6月にかけての気候変化は、急激なものではありません。むしろ、少しずつ空気の質が変わり、光の感じ方が変わり、風景の見え方が変わっていきます。その緩やかな変化こそが、自然の魅力であり、季節が確実に進んでいることを感じさせてくれます。
春の名残を抱えた四月、軽やかに開く五月、そして湿り気を帯びて次の季節へと向かう六月。
北杜市の初夏は、そうした連なりの中で、静かに形づくられていくようです。
(八ヶ岳事務所 大久保武文)


