八ヶ岳事務所マガジン

5月の八ヶ岳事務所だより 

2020年5月16日

ヤマツツジが萌えるがごとく咲きほこるこの時期。移住者の庭先などにもよく見られるこうした光景。毎年、五月になると若葉が芽吹き新緑の力強い色合いを見るにつけ、なにか生命力の源がいっきに溢れ出るように感じられます。「風薫る」とは言い得て妙。

さて、八ヶ岳の南麓では四月の半ばから高根町長澤地区の谷あいをつないで、五百ものこいのぼりがこの薫風のなかを泳いでいます。「北杜24景」のひとつといわれ、地域の人々のいとなみが創り出したみごとな風景となっています。ふだんは気流の音さえ聞こえてきそうな趣のあるこの谷がこの時期ばかりは華やかになるから不思議です。

また、八ヶ岳の佐久口に当たる長澤地区は戦国時代から交通の要衝地であったため、いまも豪壮な民家が残りそれを移住者のご家族がリニューアルしてフランス料理店をはじめ話題となっています。

▲四層のこいのぼりが薫風の空に泳いている(北杜市高根町)

もうひとつこの時期の特徴といえば「五月雨」という言い方です。陰暦五月の長雨を表現する言葉であり六月の梅雨にあたります。読み方は「さみだれ」となります。それと対をなすのが梅雨時のいっときの晴れ間をあらわす「五月晴れ」。読み方は「さつきばれ」。いっぽう、大陸の移動性高気圧がもたらす五月の晴天であれば「ごがつばれ」。ではあるけれども、五月の晴れを「さつきばれ」と思い込んだり五月に降る雨を「はしり梅雨」とも言ったりします。

こうした日本語の微妙な感覚を、私たちは意外にも平然と使い分けをしていて、暮らしてきています。もっとも、この「ごがつばれ」どきの田植えもずいぶん早くなって、水ぬるむ五月下旬ではなくゴールデンウィークかその明けにおこなうのがここ南麓でも一般的になっているようです。個人的には「さみだれ」と聞くと、温泉好きな与謝野晶子の短歌を思い出してしまいますが。

▲移住者の庭先に咲く5月の花々(北杜市大泉町)

◆民家と観世榮夫さん
私がふるさと情報館に入社したのは、1995(平成7)年のこと。その年は一月に阪神淡路大震災が起こり、入社の一週間前には地下鉄サリン事件がありました。バブル景気ははや過ぎ、日本経済は長い混迷のトンネルに入っていました。私はいつも「遅れてきた青年」であり「祭りのあと」の虚しい余韻を味わってしまうようでした。

じつは私の入社当時の「月刊ふるさとネットワーク」はAB 版サイズ16ページで中綴じモノクロ印刷でした。年間購読料金は3600円。そして当社業績も水面にやっと顔をのぞかせる程度だったとはずいぶん後から聞かされた心温まる?エピソードです。

しかしながら、そういう時だからこそなにかを真剣に探し求める人びとの気概というものをひしひしと感じてもいました。NHK の「おはよう日本」などテレビ取材がはじまったのもその頃からでした。特にすごかったのは民家再生協会の立ち上げ報道が日経新聞に出た時です。1997(同9)年の五月のいまごろだったと思いますが、私と代表の佐藤は清水市興津へ出張中でその帰り。国道52号線を山梨方面へ車を走らせていると、本部の電話が鳴り止まないと経理から興奮冷めやらぬ口調で連絡が入りました。

その後「日本民家再生リサイクル協会」の初代会長になられた観世榮夫さんが就任あいさつで述べられた言葉はいまも私の中に鮮やかに息づいています。その趣旨は「民家は日本文化の礎なり。大切な文化を引き継いで行きましょう!」と。その言葉は私には、「あなたは、日本のそれぞれの風土に培われた物件をその暮らしとともに後世へ引き継いで行きなさいよ」というエールにも聞こえました。いま思えば、私が黎明期の当社に籍を置き今日まで続けられているのは観世さんのおかげかも知れません。

文:八ヶ岳事務所 中村健二

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